厚生労働省が2月に公表した、健康づくりのための新たな睡眠ガイドで、そんな基準が示された。
ガイドのまとめに携わった検討座長で日本睡眠学会理事長の野村直尚・久留米大学長(神経精神医学)は、
出席した委員の前で「素晴らしい内容のものが出来た。これをいかに一般国民の方に普及啓発するかが大切だ」と
語った。
厚労省が睡眠に関する目安をまとめるのは初めてではない。
14年に策定された「睡眠指針」でも、「睡眠時間は、生活習慣病予防につながる」など12箇条を掲げ、
適切な睡眠時間の確保や質の改善を呼びかけた。
新たなガイドでは、お勧めする時間を世代に細かく示したことが、これまでになかった大きな特徴だ。
成人以外では「1~2歳は11~14時間」「3~5歳は10~13時間」「小学生は9~12時間」
「中高生は8~10時間」「高齢者は床上の時間が8時間以上にならないこと」とした。
睡眠自体が短い傾向は、経済協力開発機構(DECE)が33カ国を対象にした調査(21年)にも表されている。
日本人の睡眠時間は7時間22分で、もっとも短く、全体の平均の8時間28分と比べると1時間以上の差があった。
成人を「6時間以上」としたのは、睡眠が極端に短いと肥満や糖尿病、うつ病などの発症リスクが高まることが
最近の研究で分かってきたためだ。より長い睡眠を子供に勧めるのは、心身の発達に欠かせない成長ホルモンが
深い睡眠中に分泌されるからだ。
逆に、高齢者の「寝過ぎ」には警鐘を鳴らす。9時間の睡眠でアルツハイマー病のリスクが増加という最近の研究結果などを踏まえた。内村さんは、「長く床についていると生活習慣やうつ病、認知症になりやすく、長生きできないというメッセージを込めた」という。
睡眠時間とともにガイドで重視したのが、目覚めた時に体が休まったと感じる事で、「日中にできるだけ日光を浴びると、体内時計が調節されて入眠しやすくなる」「寝室にスマートフォンを持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠につながる」などとポイントを紹介している。
内村さんは、「日本人は戦後、睡眠時間を削って働いたり、勉強したりすることで経済成長や教育レベルを高めた。
そのツケが今やってきてる。平均寿命は長いが、健康寿命は長くない。幸福度も低い。ここで見直す必要がある」と
訴えている。
睡眠環境などを改善しても寝つきが良くならない場合、不眠症や睡眠時無呼吸症候群、寝る前に足に不快な症状が出る
「むずむず脚症候群」などの睡眠障害が疑われる。
東京慈恵医科大葛飾医療センター精神神経科の山寺教授は「眠りに困っている人たちがどこに行けばいいか
凄く迷っていることが問題だ」と話す。不眠症やナルコレプシー(過眠症)の患者は精神科、無呼吸症候群の患者は
呼吸器内科や耳鼻科、循環器内科、歯科、子どもの場合は小児科などを受信することが多いという。
医療法施工令で「睡眠科」を認めるよう厚労省に働きかけている。ただ、厚労省と関係学会などとの議論が
山寺さんは、「睡眠に医療的な問題を抱えている人たちが、適切な治療を受けられない『睡眠難民にならないよう、
受け入れ態勢が整備することが必要だ」と訴えた。